建物明渡請求の流れ4(占有移転禁止の仮処分)
前回に引き続き、建物明渡請求の流れをご紹介していきたいと思います。その1から順を追ってご覧いただければ幸いです。
建物明渡し手続の流れの確認
①催告・解除の意思表示 → ②任意の明渡し・即決和解 → ③民事調停 → ④占有移転禁止の仮処分 → ⑤建物明渡訴訟 → ⑥強制執行
今回は、「④占有移転禁止の仮処分」の部分の話になります。
占有移転禁止の仮処分が必要となるケース
賃借人と話し合いができない状態であれば、当然、任意の明渡しや調停での合意は期待できません。
そうすると、最終手段として訴訟=建物明渡訴訟の提起を検討することになりますが、その前に占有移転禁止の仮処分(以下、単に「仮処分」と言う場合があります。)をしておく必要があるか否かを検討することになります。
占有移転禁止の仮処分が必要か否かは、訴訟の継続中に(多くは執行妨害目的により、)建物の占有を移転されてしまうおそれが有るか否かによります。
訴訟継続中の占有移転
例えば、賃借人Aに対し建物明渡訴訟を提起したところ、賃借人Aが勝手に第三者Bに建物の占有を移転してしまったとします。
1 まず、その訴訟の「口頭弁論終結前」にBに占有が移転された場合、そのまま訴訟を続けて被告(賃借人)Aに対する勝訴判決を得ても、第三者Bに対して建物明渡しの強制執行をすることはできません。
そのため、今度はBを相手にもう一度最初から訴訟をやり直す羽目になってしまいます。
けれども、またその訴訟中に占有者がCに変わったら・・・キリがありません。
勿論、口頭弁論終結前に占有者がBに変更されていることに気付いたのならば、その時点で訴訟の相手方をBに変更する(=被告の立場をBに引き受けさせる)ことができます(民訴法50条参照)。
ただ、そうするためには、賃貸人は常に賃貸物件の占有状態や占有移転の事実を把握している必要があり、だからと言って必ずしも外形からそのような事実が判明するかはわかりません。
2 一方、「口頭弁論終結後」にBに占有が移転された場合、その訴訟の勝訴判決でそのまま強制執行ができることになります(民執法23条1項3号)。
しかしながら、実際にBに対して強制執行の申立てをするためには、「Bの占有開始時期が弁論終結後であること」や「Bの占有取得原因(売買や賃貸借等)」などを証明したうえで、当該判決に「承継執行文」を付与してもらう必要があり、この証明は必ずしも容易なことではありません。
占有移転禁止の仮処分の効力~当事者恒定効
占有移転禁止の仮処分には、当事者恒定効(とうじしゃこうていこう)と呼ばれる効力があります。
すなわち、同仮処分をしておけば、仮処分の効力発生後に占有者が変更しても、訴訟の中ではその者を全く無視して、仮処分時の占有者(=当初の賃借人A)を被告として訴訟をすれば足りることになります。このように訴訟の当事者を確定(恒定)できる効力を「当事者恒定効」と言います。
そして、Aに対する勝訴判決を得た後、実際の占有者Bに対する承継執行文の付与を受けて、建物明渡しの強制執行ができることになります。
この場合も承継執行文の付与手続は必要になりますが、その際に証明する事項は、前述のようにBの占有開始時期が弁論終結後であることなどではなく、「Bの占有開始時期が仮処分後(仮処分の執行後)」であることを証明すればよく、この証明はずっと容易なものになります。
なぜならば、占有移転禁止の仮処分を執行する場合は、裁判所の執行官が当該建物に臨場し、その際の占有者が誰かを認定して調書に残すからです。当該調書があれば、「仮処分の執行時点の占有者は賃借人Aであり、その後にBが占有を開始した」という事実が認定できるのです。
(用語の補足説明)
口頭弁論終結
通常、訴訟手続は、当事者双方の主張立証が尽きると審理を終結し、その後に判決言い渡しをします。和解等で終了する例外的な場合を除き、一般的な訴訟の流れは、
①訴訟提起 → ②審理 → ③審理終結 → ④判決言渡し
という流れなります。
ここでいう「③審理終結」が「口頭弁論終結」と言われるものです。
このときまでに裁判に現れた主張や証拠を基に裁判所が判決という形で判断を示すので、「口頭弁論終結時」というのは、訴訟手続や強制執行手続の中では非常に重要な意味をもつ基準時になります。
なお、当然のことながら、審理が終わったとはいえ「④判決言渡し」があるまでは裁判手続自体は継続中です。口頭弁論終結~判決言渡しまでの間は、通常1、2か月の期間があります。
承継執行文の付与
勝訴判決を得てもそれだけでは強制執行ができません。強制執行をするためには、裁判所でその判決に「執行文」という書類を付与してもらう必要があります。
執行文は、誰から誰に対して、どの範囲で強制執行をするのか等を示した文書です。これがないと、実際に強制執行手続をする係の方で、強制執行の対象や範囲を確定できなくなる場合が生じるからです。
さて、「承継執行文」も執行文の一種で、判決書に記載された当事者に変更(承継)があった場合に、その変更(承継)を証明すると付与されるものです。
前述した占有者の変更のケースもそうですが、もっとわかりやすい例としては、判決言渡し後に被告が死亡し、被告の相続人に対し強制執行をする場合などがあります。この場合は、相続があったことを証明して、承継執行文を付与してもらうことになります。
承継執行文によって、強制執行の相手方は相続人であることが判明する仕組になっているのです。
次回に続く
次回は、占有移転禁止の仮処分について具体的な手続の話をしていきたいと思います。
流山パーク司法書士事務所にご相談ください
建物明け渡しの手続は、時間も労力も非常にかかる手続です。任意の交渉から始まり、保全・訴訟・強制執行と様々な手続を駆使する必要もでてきます。
当事務所では、こういった裁判所に提出する書類の作成は勿論のこと、建物明け渡しという最終的な目的達成まで様々なお手伝いをすることができます。
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以 上
建物明渡請求の流れ5はこちらからどうぞ。合わせて建物明け渡し・滞納賃料回収のページもご覧ください。