債権執行の質問(手続全般編)

 今回は、債権執行についてよくある質問とその回答をご紹介していきます。
 まずは「手続全般編」です。

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司法書士 佐藤俊傑

債権執行の質問(手続全般編)

1 そもそも債権執行とは何か?

 例えば、債務者が貸した金を返還しないので、債権者は貸金返還訴訟を提起して勝訴判決(=以下、「債務名義」と言います。)を得たとします。
 それでも債務者が支払をしない場合、債権者は、債務者の預貯金や給料を差し押さえて貸金の弁済に充当することができます。ここまでの流れ自体はご存知の方も多いと思います。

 この手続の流れをもう少し法律的に見てみると、債権者は、預貯金や給料といった「金銭そのもの」を差し押さえるのではなく、債務者が有する「債権」を差押えることになります。
 預貯金であれば、債務者が銀行に対して有する「預金払い戻し請求権」、給料であれば、債務者が会社(勤務先)に対して有する「給料支払請求権」といった具合です。

 この請求権を差し押さえることによって、債権者は、債務者に代わって自分が直接支払を受けることができることになります。そのため、上記のように預金や給料を差し押さえる手続は債権執行手続と言うのです。

第三債務者

 なお、債権執行手続では、一般的に「債権者」「債務者」「第三債務者」という三者が登場します。債権執行の話をする上で重要ですので覚えておいてください。

 「債権者」と「債務者」は良いとして、「第三債務者」とは何者なのか?第三債務者とは、債務者に対して支払義務を負っている者のことです。

 上記の例で言えば、債務者の預金口座を有している銀行や債務者を雇っている会社などのことです。「第三債務者」という呼び名はあくまで法律用語です。債権者に対して直接債務を負っているわけではないですし、それどころか多くの場合、債権者と第三債務者は直接の面識もないのが通常です。

 そのため、裁判所から差押命令が届くと、「なんでうちの会社が債務者なんだ。こんな債権者など知らない。」とか、「債権者と債務者の間で勝手に解決してくれ。」などと苦情を呈する第三債務者も少なくありません。
 心情的にはわからなくもないですが、「債務者」が「第三債務者」に対して有する「債権」を差し押さえている以上、第三債務者も利害関係人として手続に関与せざるをえないのです。

2 申立て後の一般的な流れはどうなっているのか?

 次のとおりになります。

  申立て(書面審理)
  差押命令

    裁判所は、申立てに理由があると認めるときは差押命令を発し、債務者と第三債務者に送達します。命令を出すにあたり債務者及び第三債務者に意見を聞くことはしません。

  差押えの効力発生及び取立て(又は配当)
    下記の質問8をご覧ください。

3 申立てにはどのくらい費用がかかるのか?

 債権者及び債務者が各1名で、債務名義が1通の場合は、手数料(収入印紙)として4000円、郵便切手は3000円~5000円ほど(裁判所により異なる)が必要です。
 ただし、債権者や債務者の数、債務名義の数が増えると金額が変わってきます。なお、第三債務者の数や差押債権の数は手数料の額には影響しません。

4 どこの裁判所に申立てをすればよいのか?

 債務者の住所地を管轄する地方裁判所(本庁又は支部)です。債務者の住所地がわからないときは特例があります。

5 債務者が有する財産は、申立てする際にどこまで調べておく必要があるのか?

 裁判所では、債務者が有する財産を調査することはありません。これは債権執行手続に限らず強制執行手続全般に言えることです。申立人(債権者)自身で差押えをする財産を調査・特定する必要があります。
 例えば、預貯金を差し押さえる場合には、口座のある銀行名及び支店名を特定する必要があります。給料を差し押さえる場合には、会社名と所在地、代表者などを特定する必要があります。 
 詳細は、おって別のコラムにてご紹介します。

6 陳述催告の申立てとは何か?

 差押命令が発令されたとしても、債権者の方では、実際に差押え対象の債権が存在するのかどうか、存在するとしてどのくらいの額あるのかはわかりません。この点について債権者の方で確認したい場合には、「陳述催告の申立て」をする必要があります。陳述催告の申立ては、債権執行の申立てと同時にする必要があります。

 陳述催告の申立ての効果により、例えば、預金の差押えであれば、第三債務者である銀行から、預金口座の有無や金額、支払意思や他の差押えの有無といった内容について報告書(陳述書)が提出されることになります。これにより、差押えの効果を確認し、今後の動き方を検討することができます。

7 差押え対象の債権がなかった場合はどうなるのか?

 陳述催告の申立てに対する回答(陳述書)によって、差押え対象の債権のない(例えば、預金口座そのものがない場合や口座はあっても残高がなかった場合)ことが判明したときは、当然、債権を回収することはできません。
 その場合は、当該債権執行手続は空振りに終わったということで、申立てを取り下げることになります。債権者は、債務者の別の財産を新たに見つけて、改めて強制執行手続をすることができます。

8 差し押さえた債権はいつから回収できるのか?

 差押命令は、債務者と第三債務者にそれぞれ送達されます。

 「第三債務者」に差押命令が送達された時点で差押命令は効力を生じ、第三債務者は、債務者に対し、当該債権の支払をすることが禁止されます。
 そして、「債務者」に差押命令が送達された日から1週間が経過すると、債権者は、第三債務者から直接債権を取り立てることができるようになります。

 そうすると、債務者と第三債務者がいつ差押命令を受け取ったのかが重要になりますが、この日付は、裁判所から債権者に対し通知(送達通知書)がされますので、それで把握できます。

 なお、第三債務者が供託をした場合は、債権者は取立てをすることができなくなり、裁判所が配当手続をすることになります。この場合には裁判所から別途通知があります。

9 第三債務者からの取り立ては、どのようにすればよいのか?

 前述の送達通知書により取立て可能になる日を確認し、それ以降、債権者から直接、第三債務者に連絡をして、支払いについての具体的な方法等を協議することになります。
 取立てに関して裁判所は仲介等の関与はしませんので、債権者自身で交渉をすることになります。

 なお、第三債務者から振り込みや送金をしてもらう場合、振込手数料などの費用は原則として債権者が負担することになります。第三債務者は債務者へ支払っていたとき以上の金銭を負担する理由はないからです。

10 第三債務者が取り立てに応じず、支払をしないときはどうするのか?

 第三債務者が取立てに応じないときは、第三債務者を被告として、差し押さえた債権の支払いを求める裁判(=「取立訴訟」と言います。)を提起する必要があります。この訴訟で勝訴判決を得れば、それに基づいて、今度は「第三債務者」の所有する財産に対して強制執行をすることができることになります。

 また、第三債務者が提出した陳述書の内容に納得できず、差し押さえた債権の存否や額について第三債務者と折り合いがつかない場合にも、債権者は、第三債務者を被告として取立訴訟を提起して、差し押さえた債権の存否や額を確定することになります。

流山パーク司法書士事務所にご相談ください

 裁判は勝訴すること自体よりも、その後の強制執行など実際の権利実現手続の方がよっぽど大変なことも多いです。
 それだからこそ、しっかりと手続を熟知した専門家に依頼することが最も問題解決に適していると言えます。
 
 特に強制執行手続は訴訟と違い、申立て後は原則として裁判所に出頭することなく進行していく手続ですので、司法書士に書面作成業務を中心に依頼されることが非常に馴染む手続と言え、費用対効果の面からも優れていると言えるでしょう。

 当事務所では、訴訟手続から各種保全手続・執行手続のご相談、書類作成等を承っております。少しでもご心配な点があれば、まずは当事務所にご相談ください。当初のご相談は無料で時間制限なく行っていますのでお気軽にお問い合わせください。ご連絡お待ちしております。

以 上

合わせて債権回収のページもご覧ください。
コラム「債権執行の質問(預金編)」はこちら
コラム「債権執行の質問(給料編)」はこちら
コラム「債権執行の質問(執行費用その他編)」はこちら

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