訴訟にかかる費用(前編)
「訴訟をするにはお金がかかる。」と漠然と思っている方は多いと思います。そこで、今回は訴訟にかかる費用について取り上げていきます。
裁判所に納める費用
訴訟では、通常、申立てをする際に、申立て書類(訴状及び添付書類)と一緒に郵便切手と収入印紙を納付します。
ちなみに、裁判所から補正を命じられてもこれらを納付しない場合は、当該訴訟は却下(訴状却下)されることになります。
郵便切手について
郵便切手は、裁判所から各当事者に対し、呼び出し状や判決等の文書を送付するために使用します。
納付する切手の額は、相手方(被告)の数などを基準にして裁判所ごとに取り決めがあるのでそれに従うことになりますが、概ね6000円分くらいの郵便切手を納付するのが一般的です。
郵便切手は、訴訟の途中で足りなくなれば追加で納付指示があり、余れば訴訟終了後に返却されます。
収入印紙について
訴訟をするためには、原則として訴え提起手数料(申立手数料)を納付する必要がありますが、これは収入印紙で納付します。
申立手数料の額は、「訴訟物の価額(=訴額)」から算定します。
訴額(そがく)とは、「原告がその訴訟で全部勝訴したときに得られる経済的利益」のことです。
まず訴額を計算し、その額を「民事訴訟費用等に関する法律(=民訴費用法)」に当てはめて具体的な申立手数料の額を算出します。そのため、まずは訴額の算出の仕方を知る必要があります。
訴額の算出の仕方は訴訟の内容によって違います。以下に、よくある訴訟形態の具体例を挙げて説明していきます。
(具体例)貸金返還訴訟のケース
「貸した金を返してほしい。」という貸金返還訴訟は、一番ポピュラーな訴訟の一つです。
例えば、100万円を返してほしいとの訴訟の場合、訴額は100万円になります。原告がその裁判で全部勝訴したときに得られる額は100万円なので、これが先に述べた「得られる経済的利益」となるのです。
なんだ、それなら最初から「得られる金額」と言えばよいではないかとも思われますが、訴訟は必ずしも金銭回収を目的としたものばかりではないので(例えば、離婚訴訟や解雇無効確認訴訟など)、訴額の定義としては「得られる経済的利益」という表現になってしまうのです。
なお、返してもらっていない元本100万円と合わせて、未払利息や遅延損害金を請求する場合でも訴額は変わりません(この例の訴額は100万円のままということ)。
これは「附帯請求の不算入」の原則と言って、「元本と一緒に請求する限り」、利息などの附帯部分すなわちオマケ部分は訴額に含めなくて良いということになっているからです(民訴法9条2項)。訴額の計算が必要以上に煩雑になることを避けるための規定となっています。
訴額から実際の手数料を算出する
さて、訴額が100万円とわかったので、次に、これを民訴費用法に当てはめて実際に納付する手数料(収入印紙代)を算定します。
実務では、裁判所の窓口やホームページに、訴額から手数料を算定する早見表がありますので、それに単純に当てはめるだけです。ちなみに、訴額100万円の場合の手数料は1万円になります。
参考までに、訴額ごとの手数料をいくつか記載してみます。貸金返還訴訟であれば「訴額」を「請求したい元本の額」に置き換えて考えればよいということになります。
訴額 10万円の場合 手数料 1000円
訴額 20万円の場合 手数料 2000円
訴額200万円の場合 手数料1万5000円
訴額300万円の場合 手数料2万円
訴訟にかかる費用は高いか安いか
どうでしょうか?決して激安というわけではないかも知れませんが、訴訟で請求する額と比べると非常に少額ではないでしょうか。
通常の訴訟であれば、裁判所に当初納める費用は、この手数料と最初に述べた郵便切手だけです。これを聞くと、今まで思っていたよりは訴訟にかかる費用は安いと思われた方が多いのではないでしょうか。
後編へ続く
今少し訴訟にかかる費用の話をご紹介したいので、「後編」にて続けたいと思います。
後編では、もう一つのポピュラーな訴訟である建物明渡し訴訟の手数料の額を取り上げます。本編と合わせてご一読していただければ幸いです。
以上
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