遺産分割(4)(預金)
今回は、(3)に引き続き、遺産分割調停の「遺産の範囲」に関する具体的な疑問点・問題点のご紹介をしていきます。
まずは、コラム「遺産分割(1)」からご覧いただけると幸いです。
遺産の範囲に関する問題点
前にも述べたとおり、「遺産」という語が一般的に示す範囲と、遺産分割調停において分割の対象となる「遺産」の範囲は異なります。
そこで、遺産分割調停で対象となる遺産に必要とされる3つの要件をもとに、以下検討していきたいと思います(3つの要件の内容は、「コラム遺産分割(3)」をご覧ください。
預金
(以下は、平成28年12月26日追記前の取り扱いや議論になります。)
さて、亡くなった方に遺産があるので遺産分割をしましょうとなったとき、一般的にどんなものが遺産として挙げられるでしょうか?
土地建物などの不動産、現金、預金などが、遺産分割協議の俎上に上がることは多いと思いますが、その中でも預金口座はほとんど誰もが持っているため、遺産分割と言えば預金の分割と認識している方もいると思われます。
しかしながら、原則では、預金は遺産分割調停で取り扱う「遺産」の範囲ではありません。驚く方も多いと思いますが、いったいどういうことなのでしょうか。
預金は可分債権
預金は銀行に預けてあるお金というイメージですが、現金とは性質が異なり、正確には「預金債権」という権利(請求権)と考えられます。「預けてある金銭の払い戻しを請求できる権利」と考えればわかりやすいのではないでしょうか。
さて、この預金の払い戻し請求権は、権利者が2人いれば2等分、3人いれば3等分と分けることができます。なぜなら、払い戻してもらう目的物は預金(つまるところ金銭)なので、預金額を権利者の数で割っていけば、払い戻し請求権自体もきちんと分けることができるからです。
このように、分けることができる債権のことを「可分債権」と言います。そして、以上のように預金(預金債権)は可分債権であるところ、判例は「可分債権は、相続の開始と同時に、法定相続分の割合で当然に分割される。」としているのです。
そうだとすると、預金(預金債権)については、「遺産の範囲」の要件3「未分割の(分割されていない)財産)」という要件が欠けていることになり、遺産分割調停で取り扱う対象財産ではないということになるのです。
実際のところ
ただし、実際のところは、遺産の中の主たる財産が預金ということも多く、相続人の関心も高いこと、可分なため相続人間の取り分の調整弁としても使いやすいことなどから、あくまで「相続人全員の合意」のもと、遺産分割調停で取り扱っていくことになるのが多いと思われます。
また、相続によって当然に預金の払い戻し請求権が分割されると言っても、いざ銀行に対して、相続人の一人が自分の法定相続分の金額だけ払い戻し請求をしたとしても、銀行は応じないことが多いと思われます。
判例ではそうなっていたとしても、実際には1つの預金口座として預金は存在する訳です。そうすると、相続人間の話し合いで最終的にどのように分割するかは不明なため、銀行としては、二重払い等の危険を冒してまで一部の相続人に払い戻しをして、無用な争いに巻き込まれたくないからです。
遺産分割協議書なり調停調書なりで、相続人全員の意思を確認してから対応するということになります。しょせん理屈は理屈といったところでしょうか。
補足説明その1
前述までの話と異なり、ある預金口座について、名義は確かに被相続人名義であるが実際には他人のものだと言って争うのであれば、それはそもそも民事訴訟で決着をつける事項になります。
補足説明その2
可分債権に対して、分けられない債権である「不可分債権」というものがあります。
例えば、1棟の建物を数人で購入した場合、その建物を引き渡せという請求(引渡請求権)は分けることができません。目的物である建物は1個であり、半分だけよこせという問題ではないからです。
(平成28年12月26日追記)預貯金の取り扱いについて判例変更がありました。
平成28年12月19日 最高裁大法廷決定
(裁判要旨)
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。
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以 上
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