相続放棄について

 今回は、相続放棄についてお話ししたいと思います。
 なお、言葉は似ていますが内容は異なる「相続分の放棄」についてはコラム「相続の基礎 相続分の放棄」をご覧ください。

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 司法書士 佐藤俊傑

 相続放棄の意義

 「相続放棄」という言葉や内容は、ある程度知られていることと思います。被相続人の財産を一切相続しないという意思表示のことです。

 もう少し詳しく言うと、相続放棄をすると、放棄者はその相続について初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、相続開始時から被相続人の全ての相続財産(債務も含む)を承継しなかったことになります。

相続放棄の効果

 相続放棄の基本的な効果は前述のとおりですが、「はじめから」相続人ではないとされる点がポイントで、その効果は絶対的なものであり、誰に対してもその効果が生じることになります。

 これはどういうことかと言うと、放棄者の直系卑属(子や孫など)による代襲相続は発生しません。放棄者は「はじめから」相続人ではないとする以上、そもそも代襲する権利義務が存在しないからです。
 また、共同相続の場合、そのうちの一人が相続放棄をすれば、はじめから残された相続人のみが相続人だったことになりますので、それら残された相続人のみで遺産分割協議をすることになります。

相続放棄の手続

 相続放棄をするためには、常に裁判所の手続が必要です。
 「他の相続人に対し、自分は一切相続するつもりはないと話してある。」などと主張される方がときどきいますが、そういった「事実上の」相続放棄では足りません。
 相続人間ではそれで良いにしても、債権者等の第三者には相続放棄を主張できません。

 裁判所に相続放棄の申立て(申述)をし、それが受理されることによってはじめて相続放棄の効果が生じることになります。
 ただし、申述受理の審判があっても、それによって相続放棄の有効無効を終局的に確定させるものではないので、相続債権者等は、理屈上は、なおも訴訟によって相続放棄の無効を主張して争うことができます。

申述書の審査

 裁判所における相続放棄の申述書の審査は、申述書の形式的審査が主で、相続放棄をする「理由」や「必要性」の有無それ自体は主たる審査対象ではありません。
 なお、定型の申述書の用紙には「放棄の理由」を記載する欄がありますが、それは、そこのみを個別に審査しているのではなく、申述書全体の記載と相まって、後述する「熟慮期間の経過」を審査する必要があるからです。

相続放棄の熟慮期間

 相続放棄をするためには、相続の単純承認(法定単純承認を含む)や限定承認をしていないことは勿論ですが、その他に、相続放棄できる期間の制限があります。

 条文上は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に相続放棄をしなければならないとされています(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と言います。

 単純に被相続人の死亡日から3か月ではありません(もちろん、被相続人と同居する妻や子などは、「被相続人の死亡日」=「相続の開始を知った日」であることは少なくないと思いますが)。

 なお、第二順位以降の相続人(被相続人の父母や兄弟姉妹など)は、先順位の相続人がいる場合は、先順位の者が放棄をした時が、「相続の開始があった時」となります。

熟慮期間の経過

 現実には、様々な事情により熟慮期間を経過してしまうときがあります。
 典型的な場合は、亡父の死亡時には相続財産など一切ないと思っていたため何の手続もせずにいたところ、1年後に金融機関から亡父の借金の相続人として請求書が届いたことにより、初めて相続債務の存在を知った場合などです。
 債権者からの請求により初めて被相続人の債務に気づいたという例は少なくないようです。

判例による緩和

 そのため、判例は、次のとおり「熟慮期間の起算点について」一定程度緩和して考えています。

 相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを覚知した時が起算点である(大決大正15年8月3日参照)。

 相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、そのように信じたことについて相当な理由がある場合は、相続財産の全部又は一部の存在を認識した時(例えば、債権者からの請求が届いた時)が起算点である(最判昭和59年4月27日参照)。

 よって、被相続人の死亡日から相当程度経っていても、諸事情を考慮して相続放棄が認められることがあります。

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以 上

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