親権者の権利濫用
今回は、親権者の権利濫用についてご紹介していきたいと思います。
コラム「親権者と子の利益相反」の続編にあたりますので、まずそちらからご覧いただければ幸いです。
利益相反行為か否かの基準
以前、コラム「親権者とその子との利益相反」において、親権者である父又は母と子との間で利益が衝突する法律行為(=利益相反行為)を行う場合、通常どおりに親権者が子を代理してしまうと、親権者の利益が優先され子の利益が害される可能性があるため、親権の行使が制限されることについてお話ししました。
また、当該行為が利益相反行為か否かの判断基準については、判例は「行為の外形から客観的に判断すべき」、すなわち、当該行為をした親権者の動機や意図などの主観は考慮せず、あくまで行為の外形を客観的に見て判断する、としていることもご紹介しました。
判例に対する疑問点
この判例の見解によると、外から計り知ることのできない親権者の主観に左右されることがないため、取引関係に入った第三者の保護は図られます。
しかしながら、子の利益の保護という点ではどうなのでしょうか。
例えば、
①親権者が自己の遊興費を得るために、子名義で借金をし、子の所有する不動産に抵当権を設定した場合はどうでしょうか?
また、
②親権者が第三者の債務を担保するために、子の所有する不動産に抵当権を設定した場合はどうでしょうか?
両方とも、親権者自身の債務ではないため、外形的・形式的には利益相反行為に当らないということになってしまいます。これでは子の利益の保護として不十分なことは明らかでしょう。
代理権の濫用
そこで、判例(最判平成4年12月10日参照)は、上記②と同様の事例において、「代理権濫用」という理論(民法93条但書き類推適用)を用いて子の保護を考えていくことを明らかにしました。
判例の考え方
上記判例の要旨を抜粋・要約すると次のとおりです。
1 親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824条)。
2 親権者がこの権限を濫用して法律行為をした場合、その行為の相手方が右濫用の事実を知っていた(又は知ることができた)ときは、その行為の効果は子には及ばない。
3 しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、利益相反行為に当たらない限り親権者の広範な裁量にゆだねられている。
4 そして、親権者が子を代理して、子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない。
5 そうだとすると、親権者の行為が子の利益を無視して親権者自身又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を与えた法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできない。
6 したがって、親権者が子を代理して、子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、その行為が子に経済的利益をもたらすものでないことから、直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者の代理権濫用に当たると考えるのは相当でない。
結局、親権者の行き過ぎた代理行為については、代理権濫用の理論により子の利益を保護しうるとしながらも、当該行為がそもそも利益相反行為に当らないのであれば、親権者に法定の代理権を授与した法の趣旨に「著しく反する」と認められる「特段の事情」が存しない限り、代理権の濫用にはならないとして、代理権濫用となる場面を非常に制限しました。
ここから、親権というものが非常に強い権限であることがご理解いただけると思います。
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以 上
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