特別代理人~親権者と子の利益相反
今回は、親権者とその子との間に利益相反がある場合の特別代理人について、ご紹介していきたいと思います。
特別代理人制度の概要
例1)親権者である父が、自己の債務について、未成年の子を連帯債務者とすること。
上記3つの例において、父の行為はすべて利益相反行為に当たります。
親権とは
さて、「親権」ないし「親権者」という言葉は耳にしたことがあると思います。
民法では、「親権者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」と定めています(民法824条本文参照)。
ここでいう「管理」とは、子の財産の保存(例えば、家屋の修理)・利用(例えば、家賃収入を得るための賃貸)・改良(例えば、家屋の増築)を目的とする行為のことを言いますが、その目的の範囲内での処分行為(例えば、劣化腐敗の恐れのあるものを売却する)も含まれます。
そして、「子を代表する」とは、広く子の財産に影響を与えるべき法律行為について、子の地位を全面的に代行できるという趣旨です。
さらに、これとは別に、子に同意を与えることによって子自身が行う法律行為を完全に有効にさせる権限も有しています(民法5条)。
このように、親権者は子の財産ないし財産に関する法律行為について、広範な権限(財産管理権・代理権・同意権)を有しているのです。
しかし、これらの権限は、もっぱら子の利益のために認められたものであるため、当然一定の制限を受けます。利益相反行為も制限の一つです。
すなわち、親権者である父又は母と、子との間で利益が衝突する法律行為(=利益相反行為)を行う場合、通常どおりに親権者が子を代理してしまうと、親権者の利益が優先され、子の利益が害される可能性があります。
そこで、そのような場合には、子の利益を守るため、親権者等は家庭裁判所に申立てをして、子のために特別代理人を選任しなければならないこととされました(民法826条)。
つまり、上記の例3で言えば、子のために特別代理人を選任し、父と特別代理人で遺産分割協議をすることになります。
利益相反か否かの判断基準
利益相反行為のための特別代理人選任の規定は、子の利益を保護することが目的です。
そのため、利益相反行為とは、
を言います。
したがって、例えば親権者が自己の財産を子に贈与する場合のように、親権者と子の利益が相反しても、親権者の不利益によって子が利益を受ける関係の場合には、ここでいう利益相反行為には当たりません。
外形から判断
当該行為が利益相反行為か否かの判断基準は、判例は「行為の外形から客観的に判断すべき」としています。
子の利益を保護することは当然ですが、もう一方で、利益相反行為であることを知らずに取引関係に入った第三者(上記例2の抵当権者など)も保護する必要があります。
そのため、当該行為をした親権者の動機や意図などの主観は考慮せず、あくまで行為の外形を客観的に見て判断することとしたのです。
具体的検討
判例の考え方によると、上記例1、2において、父は子の教育費を得る目的で自己名義の借金をしたとしても利益相反行為になるということです。
上記例3においては、子が得をするように遺産分割協議をするつもりであっても利益相反行為になるということです。子にとって良かれと思って行為をした親権者の主観は関係ないのです。
なお、父母が共同親権者である場合に、一方の親権者とのみ利益相反する場合は、その親権者のために特別代理人を選任し、特別代理人と他方の親権者が共同して子のためにその法律行為をすべきとするのが判例です。
判例に現れた主な具体例
(利益相反にあたる事例)
〇子の財産を親権者に譲渡する行為
〇親権者の財産を子に有償で譲渡する行為
(利益相反にあたらない事例)
〇親権者が子に財産を贈与する行為
利益相反行為の効果
親権者が、特別代理人を選任せずに利益相反行為を行った場合、その行為は絶対的に無効ではなく無権代理行為となります。したがって、子は成年に達した後、当該行為が自己に利益となると判断するならば、追認して有効なものにすることができます。
特別代理人の権限と資格
特別代理人は、当該利益相反行為を行うために選任される者なので、その範囲で(審判で認められた範囲内で)権限を有します。そして、その目的とされた行為が完了することにより任務が終了します。
特別代理人は、司法書士や弁護士等に限るものではなく、特に資格は必要ありません。家庭裁判所が未成年の子との利害関係などを考慮して判断することになります。
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以 上
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