競売手続における無剰余

 今回は、競売手続における無剰余(むじょうよ)についてご紹介をしていきたいと思います。

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 司法書士 佐藤俊傑

 無剰余とは

 以前、コラム「競売手続における配当順位」において、競売手続では、申立てをした債権者が必ずしも優先的に配当を得るわけではない、優先権のない一般の私債権者の配当順位は低いということを述べました。

 このことによって起きる可能性があるのが「無剰余」です。
「剰余が無い」と書いて無剰余ですから、すなわち、せっかく競売の申立てをしたにもかかわらず申立債権者にまで配当が回ってこないことを無剰余と言います。

競売の流れ

 まず、競売手続の流れを確認しておきましょう。

 競売手続が始まると、裁判所は、執行官に競売不動産の現況調査を、評価人(不動産鑑定士)に同不動産の査定(評価)をさせます。
 裁判所は、それらの資料等をもとに売却条件を決定し、当該不動産を売却手続に付します。

 競売による売却手続は、期間入札の方法で行われる競争入札(一定の期間内に一番高い値で入札した人が落札する)です。
 入札に参加できる最低価額は決まっており、その額を「買受可能価額」と言います。「買受可能価額」以上であればいくらで入札しようと自由ですが、自分が落札したにもかかわらず、裁判所の定めた期限内に代金を支払わない場合は、入札時に積んだ入札保証金が没収されることになりますので注意が必要です。

買受可能価額での売却

 ところで、競争入札とはいえ、入札者が一人しかいない物件も当然あります。
 その場合は、特段の事情がなければその方が落札者になりますが、入札者が1名のため、最低額である「買受可能価額」で落札されることも珍しくありません(なお、蛇足ですが、不正な落札価格の操作を防ぐため、入札期間中は、当該物件に何件入札があるかは外部にはわかりません。)。

 そうすると、落札者(=「最高価買受人」と言います。)が支払った代金(売却代金)が各債権者に配当する原資となることから、仮に「買受可能価額」で落札された場合は、当然「買受可能価額」が配当原資ということになります。

 すると、次の場合には、配当順位との関係から申立債権者に配当が回らないことになってしまいます。

 「買受可能価額」より、「競売の手続費用の額」及び「申立債権者に優先する債権者の債権額」の合計額の方が大きいとき。
 申立債権者に優先する債権者はいないが、「買受可能価額」より、「競売の手続費用の額」の方が大きいとき。

 例)買受可能価額(落札額)100万円
   手続費用の額      50万円
   優先債権額の合計   200万円

 この場合、100万円の配当原資は、まず手続費用に充当され、残りは優先債権者に配当されることになるため、申立債権者への配当は無いことになります。
 仮に手続費用が100万円以上であれば、配当原資は全て手続費用に充当されるだけで終わってしまいます。

 上記1、2いずれの場合も、申立債権者にまで配当が回らないため、意味のない執行手続(=無益執行)とみなされます。申立債権者は、債権回収のために競売申立てをしたのだから、配当が得られないのであれば意味がないだろうということなのです。

 なお、「競売の手続費用」は最先順位で申立債権者が回収できるため、無剰余とは言わないのではないかとの疑問も生じます。
 しかしながら、手続費用は当初予納金として立て替えた費用を回収しているだけであって、債務者に対して有する債権の回収をしたことにはならないので、やはり無剰余ということになります。

無剰余の判断と競売手続取消の回避

 裁判所は、競売物件の売却条件を検討する過程で、当然「買受可能価額」も検討します。
 その結果、無剰余になりそうだと判断をした場合は、その旨を申立債権者に通知します。

 前述の説明では、説明の解り易さから便宜上「買受可能価額で落札された場合」としましたが、実際の競売手続では無益執行を避けるため、裁判所は(売却後ではなく)売却条件を検討する際に無剰余となるかどうかの判断をし、なるようであれば申立債権者に通知します。

 つまり、裁判所に無剰余と判断された場合は、そのままの状態では当該不動産が入札に出されることはなく、申立債権者がこの通知を受けた日から一定期間内に何もしなければ、このまま競売手続を進めても無駄ということで、競売手続は職権で取り消されて終了することになります。

無剰余取消の回避

 一方、この無剰余による取り消しを回避することもできます。回避できればその後の入札手続に進むことができます。

 前述したように、無剰余となるかどうかの判断は「買受可能価額」を基準に考えています。無益執行の回避という観点からすると、一番安く落札された場合の金額を前提に考える必要があるからです。
 そして、「申立債権者に優先する債権者の債権額」や「競売の手続費用の額」は、あくまで「見込み額」に基づいて裁判所は売却条件を検討しています。
 まだ競売手続の途中である以上、両者とも、この時点ではまだ最終的な確定額を出すことはできないからです。

 そうだとすると、申立債権者は、その「見込み」が違うこと、つまり自分まで配当が回ることを証明すれば無剰余取消を回避することができることになります。
 また、裁判所が定めた一定価額よりも高い額で落札されないときは、(責任をとって)申立債権者が自ら不動産を買い受ける旨の申し出をすることによっても、無剰余取消を回避することができます。

 無剰余取消を回避する詳細な手続・方法は、民事執行法63条に規定されています。複雑な話になるためここでは省略させていただきますが、基礎となる考え方はここで述べたとおりです。
 
 なお、ご参考までにコラム「競売申立て前の無剰余の検討」もご覧いただけたら幸いです。

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以 上

合わせて債権回収のページもご覧ください。

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