少額訴訟にメリットはあるのか?前編
今回から2回にわたり、少額訴訟のメリットについて、実務的な観点から考えていきたいと思います。
少額訴訟の利用状況
少額訴訟は平成10年から始まった比較的新しい制度ですが、当初は鳴り物入りで裁判所も大々的に宣伝していたものです。
ところが、裁判所が公開している統計(司法統計)を見ると、少額訴訟の利用件数は、全国的に、簡裁の通常訴訟の20~30分の1程度となっており、それほど積極的に利用されているようには思われません。
私の裁判所勤務時代の記憶でも、少額訴訟の利用件数はかなり少なかった記憶がありますが、それはなぜなのでしょうか?
以下、一般的に言われている少額訴訟の特徴から考えてみたいと思います。
少額訴訟の特徴1:証拠調べの制限
少額訴訟では、裁判の場で即時に調べることができる証拠しか認められません。
例えば、「○○○という人物が事情を知っているので、裁判所が証人として呼び出してほしい。」とか、「第三者○○○が重要な証拠を持っているので、裁判所からその者に対し提出命令を出してほしい。」などの主張は原則認められないことになります。
少額訴訟の特徴2:反訴の禁止
訴えられた被告からも、原告に対し、逆に何らかの請求がしたいと思った場合、通常訴訟であれば被告から反訴を提起することになりますが、少額訴訟手続では反訴は禁止されています。これは訴訟が複雑になることを防ぐためです。
少額訴訟の特徴3:不服申立て方法の制限
判決に不服がある場合、上級裁判所に上訴できません。少額訴訟をした同じ簡易裁判所に「異議」の申立てができますが、同じ裁判所で再度審理をすることになるので、結論を覆せるかは甚だ疑問です。
裁判が1回で終わるということ
前述の3つの特徴だけみると、少額訴訟を選ぶメリットはないのではと思ってしまいます。
ただ、世間一般に最も認知されている少額訴訟の特徴は、上記3つではなく、「裁判が1回で終わる。」ということではないでしょうか?
裁判が1回で終わるの意味
もちろん、あくまで「原則」1回で終わるという趣旨ですが、裁判が1回で終わること自体はメリットです。
しかし、前述した特徴からもわかるとおり、少額訴訟だから1回で終わったのではなく、1回で終わる程度に争点が少なく、かつ提出される証拠も少ない事件だからこそ少額訴訟をすることが可能だったのであり、1回で終わるべくして終わったのです。それは通常訴訟を提起したとしても結果は同じだったでしょう。
ところで、少額訴訟を提起したとしても、事件が複雑で「少額訴訟により審理するのが相当でないと認めるとき」は、裁判所は職権で少額訴訟を通常の訴訟手続にすることができます。
また、被告から、通常訴訟で裁判を行いたいという申し出(=通常移行の申述)があれば、少額訴訟として提起された訴訟は通常訴訟として進行していきます。被告側に弁護士が付いた場合などは、訴訟準備の関係もあり、まず通常移行すると思って間違いないでしょう。
つまり、少額訴訟制度自体が、1回で終わらないような複雑な事件は初めから射程にしていないのです。
以上からすると、結局のところ、少額訴訟は、訴額が60万円以下という大枠があることもさることながら、そもそも争点が少なく、証拠書類が手元にしっかり準備できている、そういった場合にのみ適する手続ということになります。それが少額訴訟の件数が多くない要因ではないでしょうか。
後編へ続く
では、少額訴訟のより具体的なメリットはどこにあるのでしょうか?。後編を引き続きご覧いただければ幸いです。
以 上
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