強制執行の費用と手間を回避ー和解のすすめー
今回のコラムは、裁判所でおこなう和解の話です。以前にご紹介したコラム「強制執行をするためにかかる費用と手間」の続編にあたるものですので、是非そちらを先にお読みいただければ幸いです。
強制執行には費用と手間がかかる
貸金返還訴訟で勝訴したけれども、相手方(債務者)が任意に支払をしない場合の強制執行の方法については前回ご紹介しました。
不動産競売のように費用がかかるものもあれば、相手方の預貯金口座を特定するなどの手間がかかるものもありました。どちらにしても、強制執行は大変そうだとの印象を持たれたのではないでしょうか。
建物明渡し訴訟の強制執行は高額の費用がかかる
賃借人が家賃を滞納したので明け渡しを求める建物明け渡し訴訟も、貸金返還訴訟と同様に実務上よくある訴訟の種類です。
勝訴判決後、賃借人が任意に立ち退かない場合は、建物明渡しの強制執行をしなければなりません。
建物明渡しの強制執行には、裁判所の執行官に支払う予納金6~7万円(個別の事情による加算あり)のほか、実際に建物の明け渡し作業をする執行補助者や解錠技術者に支払う費用がかかります。この費用は、通常の引越し業者の料金と同様に、部屋の広さや荷物の量などによって大きく変わってきますが、20万円前後から50万円以上かかるケースもあります。
そういう意味で、建物明渡し訴訟の場合も強制執行が大変ということには変わりないです。
強制執行を回避する~訴訟上の和解をする~
訴訟上の和解とは
訴訟上の和解(以下、単に「和解」と言います。)とは、裁判を継続中に、その裁判手続の中で、今後の支払や明け渡し等、様々な条件について裁判官を交えて話し合いをし、お互いに譲れるところは譲歩して合意に至る手続です。
その合意により裁判は終了しますので、判決の言い渡しはありません。合意の内容は、訴訟の当事者双方が納得したのであれば、どのような合意でも基本的に可能です(もちろん、法律上問題ない範囲で)。
実務上は、貸金返還訴訟であれば「1か月2万円ずつ、36回払い」などの分割払いの合意をしたり、建物明渡し訴訟であれば「10月末日までに明け渡しをすれば、滞納賃料は免除する。」など明渡し期限や滞納賃料の支払について合意したりすることが一般的です。
和解のメリット
原告勝訴の判決が言い渡される場合、その内容は、通常、債務者に対し「即時に」債務の履行を求めるものになります。
すなわち、貸金返還訴訟の判決であれば「即時に全額を支払え」という内容になりますし、建物明渡し訴訟の判決であれば「即時に部屋を明け渡せ」という内容になります(なお、判決文自体には「即時に」などという言葉は書かれていませんが、そういう趣旨で理解することになります。)。
しかしながら、今まで履行をしなかった債務者が、判決が出た途端すぐに全額支払いや建物明渡しをすることは、通常ありえません。そうすると、結局、手間暇をかけて強制執行手続をすることになってしまいます。
一方で、前述のように、分割払いの和解をした場合、債務者も納得して合意した以上、判決の場合よりも任意の履行を期待できます。建物明渡しの場合も、滞納賃料を一定程度免除するなどの特典によって、判決の場合よりも任意の退去を期待できるものとなります。
債務者が任意に履行をしてくれれば、当然、強制執行をする必要がなくなります。そのため、費用や手間暇の観点から、和解は非常にメリットがあると思います。
和解についてよくある疑問点
話し合いと言っても調停とは違います
訴訟上の和解は、そもそも話し合いの手続である「調停」とは異なります。
調停は、話し合いが決裂すれば、それで手続は終了してしまいますが、訴訟上の和解は、あくまで「裁判を継続中」に、お互いに譲歩して穏便に解決できないかを話し合うものです。話し合いが決裂した場合は、そのまま裁判手続を続行し、最終的に裁判所が判決を言い渡すことになります。調停のように、決着がつかないまま手続が終了してしまうものではありません。
和解調書を作成します
当事者間で合意ができた場合は、裁判所が、その合意事項をまとめた和解調書を作成します。裁判所を通して合意した以上、単なるお約束と違い、和解調書は判決と同じ効力を有しています。
懈怠条項があります
分割払い等の合意をしても、残念ながら債務者が必ず約束を守るかはわかりません。
そのため、通常は和解調書の中で、「債務者が履行を怠ったときは、即時に一括で支払う」などの条項(=懈怠条項)を入れておきます。そうすれば、万一そのような事態に陥ったときには、判決と同じようにすぐに全額に対して強制執行をすることができます。
費用対効果で考える
和解のメリットなどについて概ねご理解いただけたと思いますが、実際の裁判では、感情的になって和解を拒む人がときどきいます。裁判にまでなっている以上、相手方との間で相当な感情のもつれがある場合もあるでしょう、自分が譲歩する必要など全くないと言うのです。
しかし、裁判にまでなっているからこそ、感情的にならずに冷静に考える必要があります。
相手方の性格や態度もさることながら、財産や収入などの支払能力も客観的に見て、かつ、強制執行をすることになった場合にかかる費用と手間を考慮して方針を決定すべきでしょう。
(補足)裁判官がしきりに和解を勧めてくる場合
裁判官が、原告(請求する側)に対し、和解をしませんかと話を振ってくる場合、何かしらの合理的な理由があります。
立証が困難なため、このままでは原告が勝訴することは難しいだろうとの心証を抱いていたり、はたまた判決を言い渡すとなると、認めらる請求金額はかなり少なくなるだろうと考えていたり・・・。
そのため、最終的に和解をするかどうかはともかく、裁判官が勧める以上、とりあえずは話し合いのテーブルに乗っかっておくのが良いと思います。
流山パーク司法書士事務所にご相談ください
前回のコラムの繰り返しになりますが、裁判は、勝訴すること自体よりも、その後の債権回収や明け渡しなど権利実現の方がよっぽど苦労することも多いです。
当事務所では、訴訟から、保全・各種執行手続に至るまで、幅広くご相談や書類作成等を承っております。
当初のご相談は無料で時間制限なく行っていますので、少しでもご心配な点があればお気軽に当事務所にご相談ください。ご連絡をお待ちしております。
以 上
合わせて債権回収,または建物明け渡し・滞納賃料回収のページもご覧ください。