建物明渡請求の流れ1(催告・解除の意思表示)

 今回から数回に分けて、建物明渡請求の流れをご紹介していきたいと思います。

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司法書士 佐藤俊傑

はじめに~債務不履行による賃貸借契約の解除

 賃貸人(所有者・大家)が、賃借人の債務不履行により賃貸借契約を解除し、建物の明け渡しを求める場合、一口に「債務不履行」と言ってもその原因は様々なものがあります。

 例えば、賃料の滞納があるとか、無断で転貸されたとか、さらには無断で増改築を施されたなどが挙げられます。
 ただ、実務では「賃料不払い」を原因として賃貸借契約を解除して建物明渡しを求める事例が圧倒的に多いので、本コラムではそのような場合を念頭において述べていきたいと思います。

 実際の建物明渡し手続の流れは次のようになりますので、コラムもそれに沿って進めていきます。勿論、具体的な事案によって不要となる手続や前後する手続もあります。そのあたりについては随時お話ししていきます。

①催告・解除の意思表示 → ②任意の明渡し・即決和解 → ③調停 → ④占有移転禁止の仮処分 → ⑤建物明渡訴訟 → ⑥強制執行

「催告」と「解除の意思表示」

 今回は、前述の手続の流れ「①催告・解除の意思表示」の部分の話になります。

催告

 賃貸借契約を解除するためには、原則として、解除の意思表示に先立って「催告」をする必要があります。

 催告とは、賃借人に対し、相当期間内に滞納賃料を支払うように促す通知行為のことです。
 相当期間をどれくらいにするかは賃貸人の方で決めることになりますが、「明日までに支払え」では相当期間にはなりません。通常は1週間から2週間くらいの間にしておけば問題ないでしょう。

解除の意思表示

 上記の催告をし、相当期間が経過しても賃借人が滞納賃料を支払わない場合、賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約を解除する旨の意思表示をします。

 催告も解除の意思表示もその方法に決まりはありませんので、賃借人に面と向かって伝えたり、電話や手紙で伝えても有効です。
 しかしながら、上記のような方法だと、後に訴訟になってこの点が争われた場合に言った言わないの水掛け論になってしまう恐れがあります。

 そのため、訴訟で利用できる客観的な証拠とするために、催告も解除の意思表示もどちらとも「配達証明付きの内容証明郵便」を用いて行うのが良いです。
 なお、催告と解除の意思表示は、理屈では今まで述べてきたとおり二段階の手続ですが、実務上は、以下のような内容の通知によって1回で済ませてしまうのが一般的です。

〇月〇日までに滞納賃料〇〇万円を支払え。同日までに滞納賃料が支払われなかった場合は、本書面をもって本件賃貸借契約を解除する。」

信頼関係破壊の理論

 判例や学説が述べる小難しい言葉ですが、議論の発端は「賃借人が賃料を滞納したので、催告及び解除の意思表示をした。この場合、賃貸借契約は必ず解除されたことになるのか?」という問題からです。

 「適法に解除の意思表示をしたのだから、契約は解除されたに決まっているではないか。」と普通に考えればそうなるでしょう。
 しかしながら、結論から申し上げると、この信頼関係破壊の理論によって、適法な催告及び解除の意思表示がされたとしても、裁判で当該賃貸借契約の解除が否定される場合がありうるのです。

信頼関係破壊の理論の説明 

 理屈を詳細に述べても意味がないので、同理論をごく簡単にまとめると次のとおりです。

 通常、賃貸借契約は年単位で契約が続く継続的な契約です。そのため、その場で即時終了する売買契約などと違い、当事者間(賃貸人と賃借人の間)には高度の信頼関係があってはじめて成り立つ契約類型だと言えます。
 そうすると、たとえ賃借人に債務不履行があったとしても、それが瑣末なものであり、未だ賃貸借契約の基礎にある当事者間の信頼関係が破壊される状況に至っていない場合は、賃貸人は当該賃貸借契約の解除をすることはできないと考えることが当事者の利益にも合致すると言えるのです。

「・・・いやいや、賃料不払いにより信頼関係がなくなったのだから解除するのではないか。」との意見も聞こえてきそうです。が、この信頼関係破壊の理論は、すでに実務では確定的な理論になっていますので、実際のところはこれに基づいて考えていかざるを得ません。

信頼関係破壊の基準

 この信頼関係が破壊されたか否かは、具体的事案ごとに検討をしていきます。

 すなわち、不払い賃料額や期間などの賃料支払状況、不払いに至った事情、賃借人の支払能力や支払意思、賃借物件の使用状況など、様々な事情を総合的に考慮して判断することになります。

 例えば、手元不如意でたまたま1回(1か月)分の賃料を怠った程度では、通常は信頼関係の破壊はまだないと考えられます。また、かなりの不払いがあったとしても、それは賃貸人が重大な修繕義務を履行しないためなどという賃料不払いの正当理由がある場合なども信頼関係の破壊はないと認められる可能性があります。

実際のところ

 このように述べてくると、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除することはかなり難しいように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

 通常の居住目的の建物賃貸借契約であれば、3か月程度の賃料滞納があれば、他に特別な事情がない限りすでに信頼関係が破壊されたと認められるのが一般的なところです。

 なお、実際の裁判手続の中では、「まだ信頼関係が破壊されていないこと」、言い換えると「賃料不払いについて背信的行為と認めるには足りない特段の事情があること」について、原則として「賃借人」側が主張・立証していくことになります。

 おそらく、賃料不払いによる解除のケースよりも、無断転貸による解除や、無断増改築などの用法義務違反による解除のケースの方が、賃借人からの抗弁(反論)がいろいろと考えられるところでしょう。

(補足)催告の要否

 「催告・解除の意思表示」との関係では、この他にも、「無催告解除特約の有効性」の問題や、「当然解除特約(失権約款)の有効性」の問題などもあります。

 は、契約を解除するについて事前の催告を要しない旨の特約は有効か否かというものです。
 は、①よりさらに一歩進んで、賃借人に一定の債務不履行があった場合に、催告を要しないだけではなく、解除の意思表示もしなくても当該賃貸借契約が当然に解除されるとする特約は有効か否かというものです。
 さらに言えば、「①のような特約がない場合でも無催告解除ができる場合があるのか」という問題もあります。

 実際には、催告→解除の意思表示と手順を追って手続をする場合がほとんどですので、詳細は割愛しますが、これらの特約も信頼関係破壊の法理の考えにより一定の制約を受けます。

 判例は、無催告解除特約につき、「契約を解除するにあたり、催告をしなくても不合理とは認められない事情(賃借人の背信性)が存在すれば有効である」としています。
 そして、当然解除特約(失権約款)につき、「当事者間の信頼関係が賃貸借契約の当然解除を相当とする程度にまで破壊された場合にのみ当然解除の効力を認めることができる」としています。
 さらに、「賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為が賃借人にあった場合は、信頼関係の破壊が著しいため、催告を要せずに賃貸借契約を解除できる」としました。

  どれも基準が程度問題で漠然としているため、具体的事例によりどうなるのか微妙な場合もあります。ただ、たとえ賃貸借契約書に特約が記載されていても、それが単純に適用されるものではないということを覚えておいていただければと思います。

流山パーク司法書士事務所にご相談ください

 建物明け渡しの手続は、時間も労力も非常にかかる手続です。任意の交渉から始まり、保全・訴訟・強制執行と様々な手続を駆使する必要もでてきます。
 当事務所では、こういった裁判所に提出する書類の作成は勿論のこと、建物明け渡しという最終的な目的達成まで様々なお手伝いをすることができます。

 少しでもご心配な点があれば、まずは当事務所にご相談ください。当初のご相談は無料で時間制限なく行っていますのでお気軽にお問い合わせください。ご連絡お待ちしております。

以 上

 建物明渡請求の流れ2はこちらからどうぞ。合わせて建物明け渡し・滞納賃料回収のページもご覧ください。

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